コラム|「恋愛映画小史」

すでに100冊以上の著作がある映画評論家・佐藤忠男氏(日本映画大学名誉学長)が、87歳を迎えた本年にも「恋愛映画小史」(中日映画社刊)「映画で見えた世界」(同)を発表した。ともに日本映画大学の映画史講義をまとめたものだが、「恋愛映画小史」には教えられることが多かった。
佐藤氏によると『歌舞伎と講談の時代には、女のために苦悩する日本男子は描かれなかった』。一方、アメリカ西部劇では、西洋の騎士道物語を源流として、悪人が美しい女性と出会うことで良い人間に生まれ変わる“グッド・バッドマン”という伝統があった。これが日本映画に導入されたのが「沓掛時次郎」(原作1920年、初映画化1929年)だった。やくざの時次郎は、自分が殺した男の妻を助けて旅をするうち女に惚れて苦悩する。『「忠臣蔵」のお軽勘平の物語は恋愛を扱っている。ただこれには女性尊重の要素は全くない。(西部劇の)「鬼火ロウドン」は恋愛ものではない。しかしこれには女性の尊重がある』。「時次郎」の原作者長谷川伸が西部劇を見て、その要素を股旅物に導入したことが、日本映画に“恋愛”という近代的なテーマを誕生させた、と説いている。