ぶ厚い「映画監督 神代辰巳」

最近よく新宿を歩く。先日、紀伊國屋書店の映画コーナーで、さきごろ出版され話題になっている『映画監督 神代辰巳』(国書刊行会刊)を見つけた。701㌻のぶ厚い大型本で1万3200円(税込み)は手が出なかった。全映画35本の詳細なデータと評論、監督、関係者へのインタビューなど豊富な内容。
もうずいぶん前になる。日活ロマンポルノ全盛時代の70年代。学生時代で、大阪ロケ作品は荷物運びでもお手伝いしていた。ある時「助監督をやってみないか」と声がかかったのが田中登監督の「(秘)色情めす市場」(74)=後日改めて=と神代監督の「濡れた欲情 ひらけ!チューリップ」(75)の二本。いつもは撮影姫田真佐久さんだが同作は前田米造さん。主演は芹明香さんで「-めす市場」も一緒。撮影のない時はよく遊んでいた。演出部はチーフが鴨田好史さん、セカンドが池田敏春さん(10年死去)、筆者はサードでカチンコ係と大阪ことば指導。神代監督はよく即興演出といわれる。全然違います! 記憶をたどると、前夜は大阪・上本町にあった旅館の大広間で細部までのリハーサルを繰り返し本番に臨んでいた。撮影の合間、日活関西支社(当時)で監督と隣り合わせに。筆者の「監督の長回しと溝口健二監督の長回しは、どうちゃうんですか?」に、クマさん監督はひと言。「小西ィ、むずかしいこと聞くなよ」。
ロマンポルノ路線は予算で現場では録音せず、セリフはアフレコ。監督宅に泊まり調布市の日活撮影所で一日がかりでセリフ直しの繰り返しを覚えている。最後に会ったのは、京都映画祭で「棒の哀しみ」プレミア会場となった祇園会館の応接室。鼻には酸素ボンベのチューブが入り疲れた様子だった。「よろしくね」と言われて、「はい」と答えた。思い出である。