小津組の御前演奏会とは②

昭和28年(1953)に作られた松竹「東京物語」は小津安二郎監督の代表作。この作品から音楽は当時、ラジオドラマで活躍していた斎藤高順先生になった。筆者は今から42年前に見ている。大学2年生くらいで“人生”や“家族”がわかるはずもなく、そのまま身体を通り過ぎていったが、結婚や子どもが生まれて、ようやく「東京物語」がわかりはじめた。そんな時、大船撮影所で小津組だけが「御前演奏会」という映画音楽を録音前にほぼ同じメンバーで小津監督に聴かせたということを知った。斎藤先生から直接その話を聞いた。小津監督は初の映画音楽を担当した弱冠28歳の斎藤青年に全幅の信頼を寄せ、一度の書き直しもなく録音日を迎えた。映画音楽の指揮をやらせたらこの人の右に出るものなしといわれた吉澤博氏がタクトを振り一発で録音終了。音楽にセリフや効果音を合わせるダビング作業で、異変は起きた。戦死した二男の嫁紀子(原節子)のアパートに義母(東山千栄子)が泊まり、「おやすみなさい」と寝る場面に流れる「夜想曲」で、「ここだけ、うまくできすぎちゃうね。でも、せっかく書いてくれたんだから、小さく入れるよ」と小津監督は言った。画面と音楽の1+1は2以上の効果がほしかった小津監督は最小限の音量で演出したのだった。(終わり)

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