9月7日に松竹メディア事業部からリリースされたブルーレイ『麦秋-デジタル修復版-』を見た。昭和26年、小津安二郎監督が原節子さんと組んだ”紀子三部作”のニ作目。『晩春』(同24年)『東京物語』(同28年)の真ん中にあたる。いずれも名作である。ただ『麦秋』は、コンビ一作目『晩春』(同24年)の新鮮さ、『東京物語』の普遍さがなく、のちの評価が一歩引いた形の作品。当時はキネマ旬報ベストテン第1位。『晩春』も同第1位。『東京物語』は同第2位。1位は『にごりえ』(監督今井正)。
改めて見ると、原さんがよく笑いよく泣く。三本の中で、一番表情豊か。三部作とも家族が離ればなれになるのだが、父娘と広島・尾道-東京というのに比べ、劇的さがなくスーッと物語が進み終わる。28歳になる紀子の縁談話がタテ糸で、鎌倉で一緒に暮らす両親、兄夫婦と息子たちや淡島千景さん扮する親友のアヤたちの生活がヨコ糸のように様々な人間模様がからみ合う。
題名の由来は『大和はええぞ、まほろばじゃ』のセリフ通り、奈良の麦畑が映り、穂がゆれるラストシーンから。麦秋というが、季節は初夏。
三部作いずれも保存状態は悪かったが『麦秋』は、その中ではよいほうだった。平成13年の『東京物語』当時に比べ技術が一段と進歩し、画面のゆれや場面ごとの色調調整も完璧。これからいつでもきれいな『麦秋』が見られるのは至福の喜び。修復監修した名キャメラマン川又昴氏は当時、撮影助手として小津監督から絶大な信頼されていた。今回あらためて川又氏の執念を感じた。
共演は、小津組常連の笠智衆、杉村春子、三宅邦子、高橋豊子東山千栄子に、二本柳寛、佐野周二(関口宏の父)ら。メインスタッフは、脚本野田高梧当時小津監督、撮影厚田雄春、音楽伊藤宣二、製作山本武(『東京物語』後、製作再開の日活へ。『早春』から『秋刀魚の味』まで山内静夫氏がプロデューサー。『晩春』から製作宣伝で小津組スタッフ)。
Blu-ray4700円、DVD2800円(いずれも税抜き)。(C)1951/2016 松竹株式会社